本のご縁

人からのお薦め、書評記事、本の中での紹介など、さまざまな形で新しい本に出会います。そのようなご縁で読んだ本を感想とともにご紹介します。

インド夜想曲

出会ったきっかけ
数年前に、イギリス文学の専門家から「須賀敦子の『ミラノ霧の風景』をご存知?すばらしいわよ」と、教わりました。須賀敦子(1929-1989)はエッセイ『ミラノ霧の風景』で注目を浴び、以降数々のエッセイを出すとともに、イタリア文学の翻訳、日本文学のイタリア語訳をなさっています。須賀敦子のエッセイを立て続けに読み、その豊かな感受性と繊細な描写に魅せられ、そんな彼女が好んで翻訳したイタリア文学は、どのようなものだろうと興味が湧きました。10数冊出ている翻訳書の中でも、最も多くの作品を翻訳している作者、アントニオ・タブッキに作家を定め、その中でも比較的読みやすそうな『インド夜想曲』を読むことにしました。

アントニオ・タブッキ著、須賀敦子訳『インド夜想曲』、白水社、1993年(新書:163ページ)

紹介・感想
イタリア人の主人公は、1年前に失踪した親友を探し、インドを旅する。手掛かりになる人を訪ね歩き、行く先々で一期一会の出会いがあり、そこで交わされる会話から垣間見える独特な価値観と文化に、読み手は揺り動かされる。中でも、物語中盤、占い師の少年から、「マーヤー(この世の仮の姿)であり、アトマン(個人の魂)は別の所にいる」と主人公が言われる場面は、この作品の中で特に重要なターニングポイントだろう。清濁混じり合った、魅惑的なインド、その旅に誘われて、共に夢見心地でインドを旅している気分に酔わせてくれる不思議な作品。

作中での出会い
フェルナンド・ペソア(1888-1935) ポルトガルの詩人。作中、捜索している親友が、かつて文通していたと思われる神智学協会の会長を尋ねた際に、話題に上がる。主人公との別れ際、会長はペソア作の詩「降誕祭」を読み上げる。